
今やIntel一強ではなくなったCPU市場。
近年突如としてシェアを伸ばしているAMDはどのようにしてそのシェアを伸ばしていったのでしょうか?
今回はその戦略をCPU市場の推移とともに説明していきたいと思います。
1.CPUとは?
CPUは「中央処理装置」や「中央演算処理装置」とも呼ばれ、「プロセッサ」という言葉と同じ意味で使われることもあります。
コンピュータの中心的な部品で、ソフトウェアや周辺機器からの指示を受けて、データの計算や処理を行う装置です。
CPUの性能は、クロック周波数やコア数などによって決まります。
クロック周波数は、CPUが1秒間に何回の処理を行えるかを表す数値で、高いほど速く動作します。
コア数は、CPUが複数の処理を同時に行えるかを表す数値で、多いほど効率的に動作します。
クロック周波数やコア数などについて詳しく知りたい方は下記のサイトをご覧ください。
2.CPUシェアは?
まず、CPU市場の市場規模の推移から確認していきましょう。
やはりコロナ禍によってPC出荷台数の増加とそれに伴うCPU売上高の増加も確認できますね。
特にCPU市場は現在では約1,000億ドルの規模、日本円で約13兆円を超える市場規模になっています。

それではCPU市場のシアはどのようになっているのでしょうか?
下記グラフはCPU市場のシェア推移になります。
CPUはIntelとAMD、この二社でほぼ100%のシェアを独占しており、二社の寡占状態になっています。
特にIntelの独占は凄まじく、コロナ前まではCPU市場シェアの約8割を占める圧倒的なリーダーでした。
そこにメキメキと頭角を著したのが、長らく二番手に甘んじていたAMDです。
CPU市場のシェアはここ数年でIntelの寡占状態が続いていた市場をAMDが奪い初めています。

3.AMDとIntelの争い
1980年から2023年までのIntelとAMDの争いについて簡単に概要をまとめると、以下のようになります。
IntelはCPU市場の開発ライセンスの独占的立場から1980年代から2010年ごろまではCPU市場の圧倒的な支配者でした。
しかし、近年耳にするRyzenの登場により、CPU市場のシェアが徐々に崩されています。
2023年現在に至るまでのCPU市場の激しい争いの歴史を振り返ってみましょう。
- 1980年から1985年 Intel優勢
IntelがCPU市場のリーダーでしたが、AMDはIntelのライセンスを受けてCPUを製造していました。 - 1986年から1990年 Intel優勢
AMDがIntelのライセンスを失いましたが、自社開発のCPUを発売。IntelとAMDは訴訟合戦を繰り広げました。 - 1991年から1995年 Intel優勢
AMDがIntelに対抗する性能のCPUを発売し、IntelはPentiumシリーズを発売しました。 - 1996年から2000年 Intel優勢もAMD躍進
AMDがIntelを上回る性能のCPUを発売し、ntelはPentium IIやPentium IIIなどを発売しました。 - 2001年から2005年 Intel優勢もAMD躍進
AMDがIntelを圧倒する性能のCPUを発売。IntelはPentium 4などを発売しましたが、性能で劣る。 - 2006年から2010年 Intel優勢に、AMD後退
IntelがCoreシリーズを発売し、AMDを上回る。AMDはPhenomやAthlonなどを発売も、性能で劣る。 - 2011年から2015年 Intel優勢
IntelがCore iシリーズを発売しAMDを圧倒する性能を提供。AMDはFXやなどを発売しましたが、性能で劣る。 - 2016年から2023年 Intelやや優勢もAMD大躍進
AMDがRyzenなどを発売し、Intelを上回る性能を提供。IntelはCore i9などを発売しましたが、性能で劣る。
下記はAMDとIntelの製品比較についての沿革になります。
やはりAMDが台頭したのがここ数年であることがわかります。
年 | AMD | Intel |
---|---|---|
1968 | – | IntelがBob NoyceとGordon Mooreによって設立される |
1969 | AMDがJerry Sandersと元Fairchild Semiconductorの社員によって設立される | – |
1980代前半 | – | IBMがIntelのx86チップアーキテクチャとMicrosoftのDOSソフトウェアオペレーティングシステムを選択する |
2005 | Intelに対して私的な独占禁止訴訟を提起する | AMDに対して私的な独占禁止訴訟に直面する |
2007 | Phenom X4 9600 (4c/4t)を発売するが、性能でIntelに劣る | Core 2 Extreme QX6800 (4c/4t)を発売し、性能でAMDに勝る |
2010 | Phenom II X6 1090T (6c/6t)を発売し、初めて6コアCPUを提供する | Core i7-980X (6c/12t)を発売し、AMDのPhenom II X6 1090Tよりも高性能だが非常に高価格である |
2014 | – | Core i7-4790K (4c/8t)を発売し、デスクトップ市場で圧倒的な優位性を持つ |
2017 | Ryzen 7 1800X (8c/16t)やRyzen Threadripper 1950X (16c/32t)などを発売し、Intelに対抗する | Core i9-7980XE (18c/36t)やCore i7-8700K (6c/12t)などを発売し、AMDに対抗する |
2019 | Ryzen 9 3900X (12c/24t)やRyzen Threadripper 3970X (32c/64t)などを発売し、Intelを上回る性能を提供する | Core i9-10980XE (18c/36t)やCore i9-9900KS (8c/16t)などを発売し、AMDに対抗するが性能で劣る |
2020 | Ryzen 9 5950X (16c/32t)やRyzen Threadripper 3990X (64c/128t)などを発売し、Intelを圧倒する性能を提供する | Core i9-10900K (10c/20t)やCore i9-10980HK (8c/16t)などを発売し、AMDに対抗するが性能で劣る |
2022 | Ryzen 9 6950X (24c/48t)やRyzen Threadripper 6990X (96c/192t)などを発売し、Intelを圧倒する性能を提供する | Core i9-12900K (16c/24t)やCore i9-12980HK (12c/20t)などを発売し、AMDに対抗するが性能で劣る |
2023 | Ryzen 9 7950X (32c/64t)やRyzen Threadripper 7990X (128c/256t)などを発売し、Intelを圧倒する性能を提供する | Core i9-13900K (20c/28t)やCore i9-13980HK (14c/22t)などを発売し、AMDに対抗するが性能で劣る |
4.AMDとIntelどちらが良いの?
CPUの性能を比較していきましょう。
2023年3月現在の価格及び性能は下記の表の通りとなっています。
一般的な使用を想定して、価格と消費電力の比較です。
これは同価格帯ではAMDに利があり、普段使いの組み込みPCならAMDで安く仕上げられると思います。
消費電力:Intelはプロセスノード7nmに対してAMDは5nmと消費電力を抑えられます。
価格:同スペック帯での価格を比較するとAMDの方が安価です。
ゲーミング用途でのCPU選びはどうでしょうか?
一般的にシングルスレッド性能(1コア当たりの性能差)はIntelの方が優れていると言われており、同じコア数でもゲーミング用途ではIntelの方が良さそうですね。
ちなみにシングルスレッド性能はスレッド数とは関係なく、1コア当たりの性能を表す言葉です。
一方、動画編集や3Dレンダリングなどはマルチスレッド性能が優れているAMDの方が良いとされています。
CPU | 消費電力 | コア数 | スレッド数 | クロック周波数 | 価格 |
---|---|---|---|---|---|
Intel Core i9-12900K | 125W | 16 | 24 | 3.2GHz-5.3GHz | 約13万円 |
AMD Ryzen 9 5950X | 105W | 16 | 32 | 3.4GHz-4.9GHz | 約10万円 |
Intel Core i7-12700K | 125W | 12 | 20 | 3.6GHz-5.0GHz | 約7万円 |
AMD Ryzen 7 5800X | 105W | 8 | 16 | 3.8GHz-4.7GHz | 約6万円 |
CPUの性能について詳しく知りたい方は下記リンクを参照ください。
5.AMDの半導体戦略について
AMDは、かつては自社で半導体の製造を行っていたインテグレーテッド・デバイス・マニュファクチャラー(IDM)でしたが、2009年に製造部門を分離してグローバルファウンドリーズという会社を設立し、AMDは半導体の設計だけを行うファブレスという形態になりました。
ファブレスとは、自社で半導体の製造設備(ファブ)を持たず、外部の製造会社(ファウンドリ)に委託するビジネスモデルです。 AMDは、グローバルファウンドリーズと長期的なウェハー供給契約(WSA)を結んでおり、一定量の半導体を同社から購入することになっていました。
しかし、グローバルファウンドリーズは2018年に7nmプロセスの開発を中止し、14nm/12nmプロセスに留まることを発表しました。
これは、AMDにとって大きな問題でした。AMDは7nmプロセスで製造されるZen 2アーキテクチャのCPUやRDNAアーキテクチャのGPUを開発しており、競合するインテルやNVIDIAとの差別化を図るために最先端のプロセス技術が必要だったからです。
そこで、AMDはグローバルファウンドリーズ以外のファウンドリとも提携します。
特に、台湾のTSMCとは緊密な関係を築きました。TSMCは7nmプロセスや5nmプロセスなどの最先端のプロセス技術を持っており、AMDのCPUやGPUの大部分を製造しています。また、AMDはサムスンやUMCなど他のファウンドリとも契約しており、製品や需要に応じて柔軟に製造パートナーを選択できるようになっています。
一方でIntelは自社で半導体の製造を行うIDMですが、7nmの開発以降今く行っておらす、現状プロセスノードの点でAMDに差をつけられてしまっています。
このように、AMDはファウンドリ形態というビジネスモデルを採用しており、自社で半導体の製造設備を持たず、外部のファウンドリに委託することでコストやリスクを削減し、最先端の技術や多様な供給源を活用することができます。これは、AMDが半導体市場で高い競争力を維持するための重要な戦略です。
AMDについて詳しく知りたい方は下記のURLを参照ください。
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