
最近よく耳にする半導体関連の対中政策。
2023年3月、日本政府は半導体製造装置の輸出規制を決定しました。
なんとなく最先端半導体が使えなくなるんだろうなという感想はお持ちかなと思いますが、具体的に各国が行う製造装置および半導体関連技術の輸出規制はどのような影響をもたらすのでしょうか?
半導体サプライチェーンの解説を軸にその影響を説明していきたいと思います。
1.半導体を巡る争いとは?
2023年3月31日、日本政府の外為法の改正案により対中政策を念頭に半導体製造装置23品目に対して輸出規制導入が行われることが発表されました。
この改正案は、先端半導体の製造に必要な装備や技術を中国などに輸出する際に経済産業大臣の許可が必要となるようにするもので、米国が中国の半導体産業へのアクセスを制限するために求めていたものです。
輸出規制の対象となる装備は露光装置や洗浄・検査装置など23品目で、幅が14ナノメートル以下の先端半導体を製造する際に必要なものです。
この改正案は7月から施行される予定です。
まだ装置の詳しい情報は発表されておりませんが、近年対中政策を念頭に置いた各国の半導体関連装置および半導体の輸出規制が非常に厳しくなってきており、日本も他国に倣う形で規制を強化したものとみられます。
半導体、輸出規制導入へ 対中念頭、製造装置23品目 経産省(時事通信) – Yahoo!ニュース
2.各国の半導体規制措置とは?
各国の規制にはどのようなものがあるのかについて、2023年4月時点での各国の規制内容などをまとめました。
日本
2023年3月日本は外為法に基づいて、半導体製造装置23品目の輸出を制限すると発表した。
これらの装備は、14ナノメートル以下の先端半導体を製造する際に必要なものであり、中国など約160カ国や地域に輸出する際には経済産業大臣の許可が必要となる。
日本は、米国とオランダとの間でこのような合意があったことを公表していなかったが、地政学的な緊張や米中分断の影響で、日本企業に対する圧力が高まっていた。
アメリカ
アメリカは、2022年10月に先端コンピューティング技術や半導体製造装置などの輸出規制を強化すると発表した。
これらの技術や装備は米国の国家安全保障に関係するものとされ、中国の特定の半導体製造施設で14ナノメートル以下のチップを開発・生産・使用することを支援する米国人に対しても制限が課せられる。
米国は、中国が先端半導体技術を軍事目的に使用することを防ぐことを目的としている。
オランダ
オランダは、2023年3月に半導体技術の海外販売に新たな制限を発表した。
国家安全保障の必要性を理由に、特定の国や地域に対する輸出許可を厳格化するとした。
オランダは、世界最大の露光装置メーカーであるASML社が本拠地を置く国であり、中国への露光装置輸出については米国から圧力を受けていた。ASMLの重要性については記事後半で詳しく記載いたします。
3.半導体の各工程と各国規制の影響範囲
各国の半導体規制の影響を理解するために、まずは半導体がどのように製造されているかを理解する必要があります。
半導体は大きく分けて三つの工程、チップ設計と前工程、後工程によって製造されます。
それぞれの工程を専業とする企業(設計:ファブレス、前工程;ファウンダリ、後工程;OSAT)から、全ての工程を行う企業まで様々な業態(垂直統合型)があり、製造装置メーカーも前工程に特化している企業と後工程に特化している企業にそれぞれ分けられます。
今回の規制は主に前工程と後工程がメインとなりますので、その二つを解説していきます。

前工程
前工程では半導体の肝となるシリコンウェハを製造します。
前工程を専業している企業をファウンダリと呼び、代表企業はTSMCになります。
近年最先端半導体を製造する装置の価格が高騰し、ファウンダリでないと投資額が追いつかないという状況が続いています。
そのため、ファウンダリが前工程市場の大きなシェアを握っています。
現在最先端半導体はTSMCの独占状態が続いており、製造シェアの50%以上を支配しています。
TSMC無くして最先端半導体の製造は困難な状況にっています。
ファウンダリ | 2022年のシェア(%) |
---|---|
TSMC(台湾) | 56 |
Samsung(台湾) | 18 |
UMC(台湾) | 7 |
GlobalFoundries(台湾) | 6 |
SMIC(台湾) | 5 |
その他 | 8 |
それではなぜ半導体装置の輸出規制が重要なのでしょうか?
それは最先端半導体(14nm以下)の半導体を作るための露光装置EUVのシェアにあります。
なんと、オランダのASMLが100%シェアです笑
最先端半導体はIntelやAMDのチップから5Gのチップセット、NVIDIAのGPUまで全て含まれます。
ASMLの露光装置EUVがないとこれらの半導体の製造ができません。
これでオランダの輸出規制が中国に与える影響の大きさが理解できたかとおもいます。
露光装置メーカー | 14nm EUV露光装置のシェア(%) |
---|---|
ASML(オランダ) | 100 |
Nikon(日本) | 0 |
Canon(日本) | 0 |
SCREEN | 0 |
後工程
後工程はシリコンウェハを個変化してパッケージング化をする工程です。
後工程に特化した企業をOSATと呼びます。
前工程ほど市場独占は進んでおらず、OSATは比較的最先端戦争への影響は軽く見られがちですが、近年の積層構造化した半導体を製造できるOSATが段々と限られてくることから、今後は前工程と同じような現象が起こることが予測されます。
OSAT | 2021年の世界シェア(%) |
---|---|
ASE | 23 |
Amkor Technology | 15 |
JCET | 12 |
SPIL | 11 |
PTI | 7 |
その他 | 32 |
後工程装置は露光装置のような独占企業が少ないが、国別のシェアで見ると面白いことがわかってくる。
日本は後工程でのシェア10.0%を保有しており、輸出規制を行うとかなりの痛手であることがわかる。
当然対中政策は台湾の侵攻を念頭に置いており、台湾企業の製造装置も使えなくなることはかなりの痛手である。
中国視点で見ると西側諸国のシェアが圧倒的で、規制は非常に痛手である。
国 | 2022年の後工程製造装置のシェア(%) |
---|---|
台湾 | 36.2 |
中国 | 19.1 |
韓国 | 14.2 |
日本 | 10.0 |
アメリカ | 8.5 |
その他 | 12.0 |
4.まとめ
このように、各工程とその工程ごとの装置に強い国が存在し、全てが一つになって最先端の半導体が製造・出荷される。
そのため一社が欠けるとこの繊細なサプライチェーンを乱すことになってしまい、短期間で変わりを自国で育成することは事実上不可能である。
まさに第二次世界大戦中のABCD包囲網のような供給網遮断を中国に行っているような印象さえ受ける。
今回は各工程ごとの重要性と各国の規制がどのように影響するかについてまとめました。
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